治療と仕事の両立支援、外来で何を聞けばいい?医師が押さえる7つの実務ポイント

治療と仕事の両立支援、外来で何を聞けばいい?医師が押さえる7つの実務ポイント

療養・就労両立支援指導料
・初回850点
・コーディネーター加算400点
・2回目以降500点×6回

しかも対象疾患の定めがなくなったので、耳鼻科でも使える。

外来化学療法の加算にも「意見書が書けること」が要件に入ってるから、病院として取り組む理由もある。

まず知るところから。

「治療と仕事の両立支援」という言葉、最近よく聞くようになりました。
今回は日耳鼻2026 Day2「治療と仕事の両立支援 背景とその実際」(産業医科大学 永田先生)の聴講メモをもとに、自分の外来で使える形にまとめました。

でも外来で実際に困るのは、綺麗な理念というより、

  • 休職する?しない?

  • 会社にどう説明する?

  • 診断書って何を書けばいい?(そもそも”診断書”で足りる?)

  • 生活が回らなくなりそう(経済毒性)

みたいなところです。

そもそもなぜ今、両立支援なのか?

  • 背景として大きいのは生産年齢人口の減少

    • 長期生存例が増えた一方で、働き手は減っている。「病気の治療と仕事の両立」は働き方改革の中にも明記されていて、内閣の閣議決定レベルの話。

    • 経産省発の健康経営(上場企業の3割が取り組んでいる)にも、両立支援が項目として入っている。患者さんが治療を続けるには、仕事・お金・家庭・職場環境……いわゆる”治療以外”が効いてきます。健康の社会的決定要因(SDH)やトータルペインの考え方とも重なります。

印象的だったのは、うつ病ががん生存率に影響するというエビデンス(Giese-Davis 2011)や、職場復帰が精神的健康を通じて生存期間を伸ばす可能性があるという話。そして経済的なダメージが健康アウトカムにまで悪影響を与える「経済毒性(financial toxicity)」という概念。治療以外の要素が、治療そのものの結果を左右する、エビデンスをみるとスッと入ってきます。


1)外来で最初に言いたい「一言」

いきなり制度の説明をする前に、まずこれだけ言えると違うなと思いました。

「辞める前に、まず相談してください。選択肢は意外とあります」

患者さんは追い詰められると、相談より先に「退職」や「自己判断の欠勤」に行きがちです。ここで一回止めたい。


2)最低限、何を聞けばスタートできる?

両立支援は症状×業務で決まるとのこと。
なので、医師側が最初に知りたいのはこの2点。

  • いま一番しんどい症状は何か(嚥下、嗄声、眠気、めまい…)

  • 仕事の中で「危ない」「無理が出る」作業は何か(運転、高所、電話、夜勤、重量物、粉塵、暑熱など)

舌癌の術後例が出てました。「食事を時間内に食べられるか不安」「電話業務は外してほしい」「周りに食事を見られたくない」。こういう声が出てくると、配慮の方向性がはっきりします。


3)両立支援の”道具箱”は3つで考える

私の頭の整理としては、この3つ。

(1)傷病手当金(健康保険)

「休む=無給で詰む」状態だと、治療どころじゃない。ざっくり言うと、働けない期間の所得保障です。

  • 連続3日休んで(待期)、4日目以降が対象

  • 支給額は目安として給与の2/3(標準報酬月額ベース)

  • 期間は最長「通算1年6か月」(2022年から通算化。途中復職があっても”通算”でカウント)

細かい適用は健保で確認ですが、「制度がある」ことを早めに伝えるだけでも心理的に支えになります。

(2)主治医意見書(就労に関する)

ここが今回いちばんの学びでした。

主治医意見書は、診断書じゃない。

病名を長々書くより、

  • 業務にどう影響するか(安全配慮の観点)

  • 何を避けるべきか

  • どのくらいの期間、どんな制限が必要か(見通し)

  • 通院・治療スケジュール

この「翻訳」が価値になります。

書く内容はシンプルに3つ。復職に関する意見、医学的に必要な配慮、職場で配慮した方が良いこと。

逆に言うと、会社側から勤務情報(仕事内容)が来ないと書きにくい。だから”双方向”で、勤務情報提供書が重要、という話が腹落ちしました。ちなみに厚労省から様式例も出ています。

(3)合理的配慮(職場が判断)

合理的配慮は「患者さんが申し出て、企業が判断する」。ただし企業も何でもできるわけではなく、「過重な負担」にならない範囲で、という前提があります。

過重な負担の判断要素としては、

  • 事業活動への影響

  • 実現困難度

  • 費用・負担

  • 企業規模・財務状況

  • 公的支援の有無

などを総合的に見て判断する、と整理されていました。

医療者としては「会社にこうしろ」と命令するのではなく、医学的に必要な注意点と、現実的な代替案の候補を提示するのが現実的だなと感じました。


4)耳鼻科に当てはめると?

講演自体は診療科を問わない内容でしたが、聞きながら「耳鼻科だとどうなるかな」と考えていました。

たとえば嗄声なら電話や会議、OSAなら眠気と運転、めまいなら高所作業、難聴なら警報音や電話……。「症状×業務」の組み合わせは、耳鼻科領域でもかなり多そうです。

まだ自分の中で整理しきれていませんが、「休む/休まない」の二択ではなく、働き方の微調整でカバーできるケースが意外と多いんじゃないか、という感触を持っています。


5)両立支援は”点数”にもなる

療養・就労両立支援指導料というものがあります。

  • 初回850点

  • 両立支援コーディネーター加算400点

  • 2回目以降 500点(6回まで)

対象疾患の定めがなくなったので、耳鼻科領域でも使えます。外来悪性腫瘍化学療法の加算にも、意見書が書けることが要件に含まれているので、病院として取り組む理由もあります。


6)病院での取り組み方

産業医科大学では、両立支援コーディネーターが全例をスクリーニングして、6割は「説明のみ」で終了するそうです。休んで良い期間や就労制限の見方を伝えるだけ。

必要な場合だけ、職場から勤務情報提供書をもらって、主治医意見書につなげる。

きっかけは主治医や看護師の「仕事で困っていることは?」という一言。そこから、

  1. 身体上の負荷がある作業の確認

  2. 事故の可能性がある作業の確認

  3. 職業生活全般の困りごと

を聞いて、両立支援の取り組みを開始するかどうかを判断する、という流れです。


まとめ:両立支援は”治療の外側”を整える医療でもある

両立支援って、結局のところ

  • 患者さんが治療を続けられるように

  • 生活が崩れないように

  • 事故や増悪を防ぐように

この3つを、医療と職場の間で”翻訳”する仕事なんだと思いました。


参考リンク

講演者・研究室

制度・ガイドライン(厚生労働省)

傷病手当金

経済毒性(Financial Toxicity)

講演中に言及された論文