大学勤務医のAI活用原則——エビデンスはGenerate、ナラティブはCreate

大学勤務医のAI活用原則——エビデンスはGenerate、ナラティブはCreate

はじめに——「作らせたいのはファイルじゃない」

先日、福岡女子商業高校で開かれたテックイベント「YATAI」に参加してきました。耳鼻科の外科医がなぜ教育者の集まりにいるのかは長くなるので別の記事に譲りますが、簡単に言えば「医師は教育の素人だから、教育のプロから学ぶ」というシンプルな理由です。
YATAIで聴いた、とある先生の一言が、素敵でした。

作らせたいのはファイルじゃない。思いや物語

吉本 悟 先生 @YATAI


AIは「ファイル」を無限に作れる。でも——

大学勤務医をしながら、ここ数年AIを業務に取り入れてきました。英語論文の表現を磨く。外勤シフトの自動計算。学生向け教材の下書き。
AIは驚くほど速く、驚くほど正確に「ファイル」を生成してくれます。
でも、ふと気づくのです。
今の所、、、AIが出力したファイルには「選択」がない。
「なぜこれを書くのか」「誰に届けたいのか」——その部分はAIには決められない。プロンプトを打ち込む人間の側にしかないものです。
ここに、Create(創造)とGenerate(生成)の決定的な違いがありそうです。


Create と Generate——何が違うのか

Create(創造)とGenerate(生成)の違いは?

整理してみると、こうなります。

Generateは「刺激→反応」。言われたから出す。
Createは「選択→表現」。自分の内側から湧き出す。


物語が生まれる3つの条件

イベントの議論と、自分がこれまで学んできた理論を重ねてみると、「ファイル」が「物語」に変わる条件が3つ見えてきました。

「ファイル」が「物語」に変わる3条件

条件1:選択がある

「やらされた」ではなく「やりたい」から始まっていること。
心理学者ウィリアム・グラッサーの選択理論では、人は外からの強制(外的コントロール)ではなく、自分の内側にある「理想の写真集」(上質世界)に向かって行動するとき、最も力を発揮するとされています。
逆に言えば、「やれと言われたからやる」状態では、どんなに立派なアウトプットも「ファイル」止まりなのです。

条件2:届ける相手がいる

「誰に届けたいか」が明確であること。
組織行動論では、仕事の成果をドゥアブル(やったこと)とデリバラブル(届けた価値)に分けます。報告書を10枚書いたのがドゥアブル。その報告書を読んだ後輩が「なるほど、こう考えればいいのか」と行動を変えたなら、それがデリバラブルです。
物語は、届ける相手がいて初めて成立する。

条件3:「なぜ」が自分の軸に繋がっている

目の前の行為と、自分が大切にしていることが一本の線で繋がっていること。
この一貫性がないアウトプットは、どれだけ丁寧に作っても「ファイル」のまま。逆に、一貫性があると、たとえ粗削りでも物語として人に届く


私の場合——医局でAIを使いながら考えていること

具体例を挙げてみます。
外勤シフトの自動計算システムを作りました。GASのコードはAIと一緒に書きました。ファイルとしてはスクリプト一式です。でもその本質は「公平な勤務条件で医局の信頼関係を守る」という物語。コードを書いた理由はそこにあります。
英語論文の執筆。医学にはEBM(エビデンスに基づく医療)とNBM(患者さんの物語に基づく医療)という2つの柱があります。この2つは対立ではなく共鳴です。エビデンスがナラティブに深みを与え、ナラティブがエビデンスに意味を与える。
エビデンスはGenerateできる。ナラティブはCreateするしかない。でもその2つが共鳴したとき、初めて「物語」になる。


「creativityが発芽する条件」とは

イベントの最後に出た問い、「creativityが発芽する条件は何か?」。
私なりの答えはこうです。

creativityが発芽する3条件

  1. 見える——自分が何を大切にしているかが言語化されていること

  2. 心が動く——自身が描く上質な世界に触れていること(「やりたい」が湧く状態)

  3. 届ける相手がいる——「あなただから聞きたい」と言ってくれる人がいること

この3つが揃うと、creativityは「発芽」する。
そしてAIは、発芽した創造性を形にする速度を劇的に上げてくれる。でも、種を蒔くのは人間です。


おわりに——あなたの「物語」は何ですか?

AIの進化が速すぎて、「もう人間がやることなくなるのでは」と不安になることがあります。
でも、この整理をしてみて確信しました。
ファイルはAIが作れる。でも物語は、選択からしか生まれない。
あなたが今取り組んでいること。それは「ファイル」ですか、「物語」ですか?


参考

  • YATAI@福岡女子商業高校(2026/2/14)

  • ウィリアム・グラッサー『選択理論』——外的コントロール vs 内的コントロール

  • 野田智義・金井壽宏『リーダーシップの旅』——デリバラブル思考

  • 野中郁次郎『知識創造企業』——SECIモデル


実際はもう少し丸くて目が小さいですね