大学勤務医が教育者のデジタルコミュニティに通う理由—「医師は教育の素人」から始まった越境の話

大学勤務医が教育者のデジタルコミュニティに通う理由—「医師は教育の素人」から始まった越境の話

Create vs Generate記事の姉妹編。「なぜ医者が教育イベントに?」を深掘りする体験記。


はじめに——「なんで大学の先生がここにいるの?」

教育者向けのテックイベントに参加すると、必ず聞かれる質問があります。
「なんで大学勤務医が、小中高の先生たちの集まりにいるの?」


医師は「教えるのがうまい」と思いがちだけど

医師は、教育の素人です。
こう言うと驚かれることがあります。「先生って毎日教えてるじゃないですか」と。
たしかに、1on1で後輩に手技を教えたり、ベッドサイドで研修医に説明したりする場面は日常です。でもそれと「授業」はまるで別物。
100人の学生の前に立って、90分間で何かを伝える。全員の理解度が違う中で、どう構成するか。どこで問いを投げるか。どんなスライドが「伝わる」のか。
医学部では「教え方」を教わる機会がほとんどありません。みんな自己流で、「自分が受けた授業」を再現するだけ。
私自身、まだまだ若手と言いたいところですが、気がつけば医学部生の授業や実習、看護学生への講義、研修医・専攻医への教育を行う立場になっていました。そして正直に言えば、教え方に自信がなかったのです。


Canvaの集まり、楽しそう——軽いノリが教育を楽にした

2024年11月に参加したCECの様子

転機は、Canva Educators Communityでした。
「Canvaの集まり、楽しそう」。それくらいの軽いノリで、2024年9月に参加、目から鱗の連続でした。
小中高の先生たちは、「どうやって伝えるか」のプロです。毎日、興味も理解度もバラバラな子どもたちの前に立って、限られた時間で何かを届けている。そのために、デジタルツールをどう使うか、スライドをどう構成するか、問いをどう設計するか——を日々研究しています。
医師の世界にいると、こういった「教え方のスキル」に触れる機会がほとんどありません。学会発表の作法は学ぶけれど、「授業設計」は学ばない。
Canvaのコミュニティで得たのは、ツールの使い方だけではありませんでした。「教育をデザインする」という発想そのものを手に入れたのです。


「教育のプロたちから得る場」として

それをきっかけに、CanvaだけでなくGoogle、ロイロノートなど、教育ICTコミュニティに顔を出すようになりました。具体的に何が変わったか。挙げてみます。

「教育デザイン」を意識するようになった

それまでの自分の授業は、情報を正しく伝えることがゴールでした。スライドに詰め込んで、時間内に喋りきる。それが「良い授業」だと思っていた。
教育者たちは違いました。**「この90分で、学生にどんな体験をさせるか」**から設計している。1スライド1メッセージ。考えさせる問いを挟む。グループワークで手を動かさせる。そういった「授業設計」という発想を、小中高の先生たちは当たり前にやっていました。
臨床医をやりながらこの感覚を持って授業している人は少ない?気がします。

問いのデザイン、自分たちの仕事・研究・教育全てに重要

ロイロノートのシンキングツール

学生に寄り添う姿勢に、感銘と反省

教育者たちの「学生に寄り添う姿勢」にも衝撃を受けました。
「この子はどこでつまずいているのか」「どうすれば安心して発言できるか」——教育者なんだから当たり前なのかもしれません。でも医師の世界では、「教えたんだからわかるだろう」が無意識の前提になりがちです。
感銘と、反省です。

「授業以外の時間」も伝えるようになった

教育者コミュニティに通ううちに、授業の中だけが教育じゃないと気づきました。
たとえば最近は、**「頭の悪くなるAIの使い方」と「よくなるAIの使い方」**を学生に伝えるようにしています。AIに丸投げして思考停止するのか、AIを壁打ち相手にして思考を深めるのか。この違いを教えるだけで、学生のアウトプットが明らかに変わる。

教育のプロたちのスキルを少し使えるだけで、だいぶ楽になっている気がします。というか、楽になっているどころか、教えることが楽しくなってます。


YATAI——福岡の「屋台」のように

先日参加した「YATAI」は、福岡女子商業高校で開かれたテックイベントです。
由来は福岡名物の「屋台」。ベテランの先生も、ICTを始めたばかりの若手の先生も、肩書き関係なく「ちょっと寄ってみようかな」って立ち寄れる場所。お祭りみたいに楽しみながら学べる。

YATAIで聞いた一言が、別の記事のきっかけになりました。

この言葉から考えたことは、姉妹記事「AIが『ファイル』を量産する時代に、人間にしか作れない『物語』がある——Create vs Generateの話」に書いています。


医師に伝えたいこと

教育に悩んでいる医師は、きっと多いと思います。
講義がうまくいかない。学生が寝ている。研修医への説明がうまく伝わらない。
そんな時、医学の世界の中だけで答えを探さなくていい
教育のプロたちは、すぐ隣にいます。しかも、デジタルツールのコミュニティという「入り口」は、とてもカジュアルです。Canvaの使い方を学びに行くだけで、「教え方」そのものが変わる
越境のハードルは、思っているより低い。必要なのは「楽しそう」というたった一つの動機だけです。


おわりに——越境は、最高のインプット

「医師は教育の素人」。
素人だからこそ、教育のプロたちから学べることが山ほどある。そして、医療現場で培った「伝える力」を教育の文脈で鍛え直す。越境は、最高のインプットです。
そして面白いことに、この「越境して学ぶ」という行為自体が、まさに自分の選択から始まった「物語」なのだと気づいています。


実物はもう少し丸くて目が小さいですね

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  • 姉妹記事:AIが「ファイル」を量産する時代に、人間にしか作れない「物語」がある——Create vs Generateの話

参考

  • Canva Educators Community

  • YATAI@福岡女子商業高校(2026/2/14)